【製造業の現場から】なぜ「話のプロ」はネットに出てこないのか?──日本的サラリーマン文化の呪縛

2025年11月15日土曜日

サラリーマン

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 今日は、製造業の世界に無数に存在する「話のプロフェッショナル」たちが、なぜインターネットの世界に姿を現さないのか。その理由を、日本的サラリーマン文化の構造から考えてみたいと思います。


現場に潜む「話のプロフェッショナル」たち

製造業の現場には、驚くほど話のうまい人たちがいます。
彼らはユーモアと例え話の名手で、難しい技術や品質の話を、たとえ素人相手でも分かりやすく語ることができる。

私は東南アジア、特にタイで製造業の営業をしていた経験がありますが、現地の工場長、技術者、営業責任者と話していると、どの人も自分の言葉を持っていると感じました。

彼らはただの職人ではなく、「言葉を操る職人」でもある。
知識を伝え、交渉し、信頼を築く。その過程で自然に、話す技術が研ぎ澄まされていくのです。


それでも彼らは、ネットには出てこない

ところが、これほど話術と経験を持つ人たちの多くは、YouTubeにもブログにも登場しません。
彼らの発信は、せいぜい社内の後輩への指導や、飲み会の雑談レベルにとどまります。

つまり、社会に語る力を持ちながらも、それを解放しないのです。

その理由を突き詰めていくと、そこには日本独特の「組織文化」という名の呪縛が見えてきます。


知識の“所有権”を会社が握る国

日本の製造業の多くでは、知識や経験は個人のものではなく、会社のものとされています。
たとえ本人が何十年もかけて築き上げたノウハウであっても、外部に出せば「持ち出し」「裏切り」「出しゃばり」と見なされる。

そのため、ベテランほど「語らない」ことを美徳とし、沈黙の中に誇りを見出すようになります。
この構造は、まるで職人が自分の秘伝を弟子以外には教えない封建的な徒弟制度のようでもあります。

「喋らない人ほど信頼できる」──そんな暗黙のルールが、今も多くの現場を支配しています。


「自由」よりも「安心」を選ぶ人々

この沈黙の文化は、単なる保守的な習慣ではありません。
それは、自由への恐怖が生み出したものでもあります。

もしインターネット上で発信を始めれば、そこには自由と同時に責任が生まれます。
自分の意見を出す以上、批判も受けなければならない。
会社の看板が通用しない世界で、自分自身の言葉に対して責任を持たなければならない。

その状況を想像しただけで、多くのサラリーマンは一歩を踏み出せません。
会社の中で「見られる範囲の自由」に安住し、評価される安心の中にとどまります。

彼らは狭い業界内で、「あの人はできる」「知識がある」と言われることに満足してしまう。
その評価の輪を出た瞬間、自分が“何者でもない”ことを突きつけられる恐怖があるのです。


沈黙を破るという「裏切り」

私自身、この沈黙の構造の中で生きてきました。
だからこそ、あえてその沈黙を破りたいと考えています。

製造業の世界に蓄積された知識や経験を、言葉として社会に解き放つこと。
それは、ある意味でこの業界への挑戦であり、そして少しの復讐でもあります。

発信することは、この文化の中では「裏切り」と見なされるかもしれません。
しかし私は、それを新しい形の忠誠だと捉えています。
知識に対する敬意、現場で働く人々への尊敬、そして次の世代へつなぐ責任。
そのすべてを果たす手段が、インターネットで語ることなのです。


知識を光に晒すという勇気

もし誰も語らなければ、
油と鉄の匂いがする現場の世界は、やがて静かに風化していくでしょう。

私は、それを止めたいのです。
誰かが金属の音の中で得た知恵を、言葉として残さなければならない。
それが、現代の「ものづくり語り部」の使命だと思っています。

私にとっての発信とは、
沈黙の文化への小さな反逆であり、
同時に現場への最大の敬意でもあります。


【知識と経験のジレンマを例えるなら】

製造業のベテランたちが持つ知識や話術は、
まるで金庫の中に保管された家宝のようなものです。

社内という小さな共同体の中では、その家宝は絶大な価値を持ちます。
しかし、外へ持ち出そうとした瞬間、「盗人」「裏切り者」の烙印を押される。
だから彼らは、光の当たらない金庫の中で、
その価値を誇りながらも永遠に眠らせてしまうのです。


製造業には、語る力を持ちながら沈黙している人がたくさんいます。
私は、その沈黙に穴を開けたい。
彼らの知識と声を、社会に解き放つ翻訳者でありたいと思っています。


Preplyでビジネス日本語を教えています。日系企業で働いてみたい方、日本語の更なるスキルアップを目指す方など大歓迎です。お気軽にお問い合わせ下さい。

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