「マインドセット」という最強の逃げ道:なぜ私たちは行動できなくなるのか

2025年12月6日土曜日

考えかた

t f B! P L

今日のテーマは、自己啓発やビジネス書の世界で頻繁に登場するキーワード、**「マインドセット」**です。

なぜこの言葉はこんなにも多くの人を惹きつけるのでしょうか?
そして、なぜ多くの人は「分かった気」になりながらも行動できないのでしょうか?

その構造を丁寧に掘り下げていきます。


マインドセットが“高尚”に聞こえる理由

マインドセットとは、要するに**「心構え」のことです。しかし、日本語の「心構え」では平凡に聞こえるものが、「マインドセット」という横文字に変わった瞬間、不思議と高度で専門的な概念に見えて**しまいます。

これこそが、自己啓発が持つ典型的な“トリック”です。

この言葉が広く受け入れられる理由はとてもシンプルです。

マインドセットという言葉は、誰かの価値観を脅かすことがなく、反対されにくい「安全な言葉」だからです。

「自分を信じよう」「前向きに生きよう」「変化を恐れない心を持とう」
こうした言葉は、耳に心地よく、誰でも賛成できるものです。
しかし、その“誰も反対できない”という性質こそ、もっとも危険な点だと私は考えます。


「分かった気」になるという最大の罠

抽象的な言葉は、非常に受け入れやすいものです。
そのため多くの人は、自己啓発本を読んだ瞬間に、

「ああ、理解できた」
「やるべきことが分かった気がする」

という“錯覚”に陥ります。

しかし現実には、自己啓発の文章は抽象度が高いように見えて、
中学生でも読めるほど平易で優しい日本語です。

だからこそ、

  • 「理解した」と錯覚しやすく

  • 行動につながるほどの深い変化は起こらず

  • 気持ちだけが満たされて終わってしまう

という構造が生まれます。

もし疑問を呈しても、「それはあなたの理解度が低いからです」という“マウント構造”で押し返されてしまう。
これが、自己啓発ビジネスが持つ厄介な特徴です。


抽象語が行動を生まない4つの理由

ではなぜ、マインドセットのような抽象語は行動を生まないのでしょうか。
その理由を4つに整理します。


1. 意味が曖昧で、解釈が無限に広がる

例えば「変化を恐れない」という言葉。
この言葉は、次のどれにも解釈できます。

  • 転職する

  • 副業を始める

  • 読書をする

  • 生活習慣を変える

  • 何もしないことも“変化に備えている”と言える

このように、曖昧な言葉は曖昧な行動しか生まないのです。


2. 「やるべき手順」が一切書かれていない

抽象語には、

  • 具体的な作業

  • 行動リスト

  • 手順

  • 必要な努力量

が何もありません。
だから読んだ瞬間は満足しますが、そのまま現実に落とし込めないのです。


3. 最も重要な作業「翻訳」を回避してしまう

抽象語を具体的な行動へ落とし込むには、
自分の頭で「翻訳作業」を行う必要があります。

しかし、この“抽象 → 具体”の翻訳こそが
人間にとってもっとも疲れる作業です。

自己啓発本は、そのしんどい作業をスキップさせてくれるので、
人はどうしても“楽な方”を選んでしまいます。


4. 痛みを伴わない「快楽」だけが残る

行動には痛みがあります。

  • 恥をかく

  • 失敗する

  • 時間を失う

  • エネルギーを消耗する

しかし抽象語には痛みがありません。
読むだけで「前に進んだ気」になれる。
だから脳は自然と、痛みゼロの抽象語を選び続けるのです。

これが、マインドセットという言葉が
“最強の逃げ道”になる理由です。


抽象的な心構えを卒業しよう

マインドセットの快楽をいくら摂取しても、行動は変わりません。
本当に必要なのは、

抽象的な極論ではなく、地道な具体的作業です。

  • 小さな改善

  • 明確な手順

  • 毎日の積み上げ

  • 失敗の繰り返し

これらだけが、行動をつくり、現実を変えます。

耳障りのいい抽象語は、
しばしば「何も生まれない構造」を隠しています。

もしあなたに達成したい目標があるのなら、
抽象語の快楽を一度脇に置き、
具体的な“次の1ステップ”へと翻訳する作業に向き合う必要があります。


まとめ:行動を生むのは「痛みを伴う翻訳作業」だけ

抽象語は未来への鍵のように見えますが、
実態は一時的な満足をくれる甘い麻薬のようなものです。

成長を生むのは、

  • 抽象 → 具体への翻訳

  • 面倒な地道な作業

  • 痛みを受け入れる覚悟

これだけです。

「マインドセット」から「行動」へ。
あなたが今日踏み出すその一歩が、
未来をつくる唯一の現実的な方法なのです。


Preplyでビジネス日本語を教えています。日系企業で働いてみたい方、日本語の更なるスキルアップを目指す方など大歓迎です。お気軽にお問い合わせ下さい。

このブログを検索

ブログ アーカイブ

連絡フォーム

名前

メール *

メッセージ *

ポッドキャスト ビジネス日本語講座

QooQ