大学時代、私は数えきれないほどアルバイトを転々としました。
長続きしなかった最大の理由は、人間関係の疲れ。協調性に乏しかった当時の自分は、社会の「冷たい風」に当たるたび、傷つき、挫け、また新しい現場へ――そんなことを繰り返していました。
それでも「このままではいけない」という焦りは常にあって、反省しては挑戦する日々。サークルの仲間とギターを弾く時間だけが、心の避難所でした。
個人経営の本屋での出来事
数あるアルバイトの中に、東京・大塚駅前の個人経営の本屋があります。
元編集者の店主が開いた、品揃えにこだわりのある店でした。
しかし私はそこで、同年代のアルバイト仲間と誰一人として打ち解けられませんでした。
仕事も想像以上に重労働。接客、運搬、棚出し――本は重い。面白さよりも疲労が勝ち、私はついにバックれてしまいます。
数日後、店主から電話が届きました。
「辞めるのは構わない。ただ、挨拶には来なさい」
覚悟を決めて店に向かうと、同僚たちのよそよそしい視線。居たたまれない気持ちで店主と向き合い、短い対話の最後に、忘れられない一言を受け取ります。
「君は孤独に強い人だから、将来はそういう仕事に就くといい」
あの一言が、のちの生き方を照らした
社会に出てから、私は想像どおり人間関係で何度も苦労しました。
それでも、店主の言葉は胸の奥で静かに灯り続け、やがて私はフリーランスという道を選びます。
「孤独に強い」とは、群れに迎合しない潔さのことでもあります。
一方で、人間関係を築くのが難しくなるという影も抱えます。干渉しない代わりに、無関心に傾きやすい。よく言えば自由、悪く言えば孤立。
それでも、この特性があるからこそ、私は一人で仕事を作り、続けてこられたのだと思います。
会社の人間関係は“仕事がつなぐ縁”
会社員でいる間、私たちは日々誰かと顔を合わせ、会話を交わします。
しかし、その縁は多くの場合“仕事”が媒介です。退職すれば、自然にほどけていく関係も少なくありません。結局、人はそれぞれの場所で、自分の人生を背負って生きている。本質的な孤独は避けられないのだと、今は静かに受け止めています。
あのとき学んだ三つのこと
終わり方は自分の品になる
どれだけ居心地が悪くても、別れの挨拶は自分のためにしておくべきだった。店主はそれを教えてくれた。特性は短所でも道具でもある
「孤独に強い」は、組織では扱いづらいかもしれない。しかし、創作や自営には大きな武器になる。避難所を持つと折れにくい
私にとってはギターサークルがそれだった。居場所が一つあるだけで、人はもう一歩だけ耐えられる。
もし今、働く場所で悩んでいたら
無理に“群れる”必要はない。ただし関係の終わり方は丁寧に。
自分の特性を武器に変えられる環境を探すか、つくる。
仕事と別の小さな居場所を持つ。音楽でも、読書会でも、散歩でもいい。
最後に。
あなたの記憶にも、時々思い出してしまう「誰かの一言」はありませんか?
その言葉が、今のあなたに何を語りかけているのか――少しだけ耳を澄ませてみてください。きっと、進む方向のヒントが潜んでいます。