シニアの「リゾートバイト」は本当に幸せか

2025年9月24日水曜日

働き方

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最近、YouTubeでシニアのリゾートバイトを取り上げる動画をいくつか目にしました。

風光明媚な観光地に滞在しながら働く──健康維持や生きがいづくりの観点からも、とても良い取り組みに見えます。私自身も「いつか年齢を重ねたらやってみたい」と最初は前向きに受け止めました。

しかし、しばらく考えたのちに、別の懸念が浮かびました。
現場では、物覚えや業務スピードの差、世代間コミュニケーションの難しさから孤立したり、のけ者にされるケースも少なくないのではないか──。加えて、こうした動画の背後には人材紹介・派遣などのビジネス的動機が絡みやすく、ネガティブな側面が語られにくい事情もあるはずです。

そこで今回は、私自身が20代後半で経験した**リゾートバイト(湯西川温泉のホテル・総務職)**を振り返りながら、現場の実相と、特にシニアが挑戦する際の注意点をまとめます。


私のリゾートバイト体験:理想と現実のあいだ

配属:珍しい「総務」職

人材会社を通じて紹介されたのは、栃木県・湯西川温泉のホテルでした。
フロントやホールではなく総務という珍しい募集でした。業務は在庫管理、給与計算など。体力的には比較的軽いと見込み、気楽に引き受けたのが正直なところです。

到着早々に浴びた“現実”

山深い地に着き、最初に声をかけた番頭さんは、私を客と思って丁寧に応対。しかし、**「リゾバの派遣です」**と伝えた瞬間、態度が一変。
「あっちへ行って聞いて」──露骨な温度差に、宿泊業の厳しいヒエラルキーをいきなり突きつけられた気がしました。

寮の環境:個室だが“凍える三畳”

案内された寮は三畳ほどの個室。壁は薄く、冬の冷気がすきま風のように入り込み、寝具は使い古されて匂いも強い。
「短期で貯金」と腹を括りつつも、正直、環境ストレスは小さくないと痛感しました。

職場の空気:大声のパワハラ

現場を仕切るホール長は、典型的な大声・罵声タイプ。
デルのサポートに電話しながらオフィスに響く声で「俺に仕事させろ!」と怒鳴る姿は、今も鮮明に覚えています。
職場全体に緊張が走り、派遣・短期スタッフほど矢面に立ちやすい空気がありました。

退職:理解ある“二代目社長”との対話

結局、長期契約の予定を2週間ほどで離脱
去り際、二代目社長が自分の若い頃の苦労を語り、真摯に引き止めつつも私の決断を尊重してくれました。トップの姿勢次第で、現場の過酷さの中にも救いの余白は生まれるのだと知りました。


メディアが語りにくい「負の側面」

  • 労働密度と季節変動:繁忙期は想像以上に過密。未経験者には体力・段取りの両面で負荷が高い。

  • 職場文化の“段差”:外部人材への距離、言葉遣いの荒さ、昭和的な指導法が残る現場も。

  • 住環境のギャップ:寮は“住めればOK”水準のことも多く、睡眠・衛生・寒暖の問題が積み重なる。

  • 世代間コミュニケーション:20代前半が主力の現場では、年齢差が壁になりやすい。丁寧さだけでは距離が縮まらない場面も。

プロモーション的な動画では、どうしても**「生きがい」「第二の人生」**が強調されます。しかし、適応の難しさや職場の未整備は、挑戦前に知っておきたい現実です。


シニアが挑戦する前に確認したい8項目(実務チェックリスト)

  1. 体力と持病
    持ち場によっては立ち仕事・重量物の扱いが多い。自分の可動域と回復力を冷静に見積もる。

  2. コミュニケーションの型
    指示は短く早口、現場は敬語よりスピード優先な場面も。聞き返し方の練習を。

  3. 住環境
    寮の広さ・暖房・寝具・騒音・風呂・洗濯動線を事前に確認。寝具は持参(シーツ/カバー/枕)で体感が激変。

  4. 職場の指導スタイル
    「指導=叱責」文化の有無を担当者に具体例で質問。「新人への声かけは?」と運用の実態を聞き出す。

  5. 班構成と年齢レンジ
    同班の平均年齢・男女比・経験年数を事前確認。同期が1人いるだけで離脱率は下がる

  6. 業務内容の粒度
    「在庫管理」「配膳」などラベルで判断せず、1時間単位のタスクを聞く。ピーク時の段取りも。

  7. 賄い・休憩・拘束時間
    食事時間・休憩の取り方・中抜けの有無・残業の平均。カロリーと睡眠が削られると続かない。

  8. 契約の柔軟性
    途中離脱時のペナルティ、交通費・赴任費の扱い、延長可否。条件は書面で


それでも挑戦したいなら:適応のコツ

  • “初回は短期・負荷低め”でテスト
    いきなり長期は避け、2〜4週間の軽作業系で現実を確かめる。

  • 自前の“快眠セット”を用意
    シーツ、枕カバー、軽量毛布、耳栓、アイマスク。睡眠の質は命綱

  • 言い方のテンプレを持つ
    「確認させてください」「次は○○の順で進めます」で衝突を回避。

  • 若手への“先輩風”は封印
    経験談は頼まれたら短く。手を動かす姿勢が最強の共通語。

  • “逃げ道”を契約で確保
    体調不良・不適合時の打ち切り条項を必ず確認。


結論:リゾートバイトは“誰にでも優しい選択”ではない

シニアのリゾートバイトには、景色と人間関係と労働が一体となった独特の難しさがあります。
合う人にはかけがえのない体験になる一方、環境ストレスと文化の段差に苦しむ人も少なくありません。

「生きがい」や「第二の人生」の看板に惹かれる前に、ご自身の体力・性格・生活習慣に照らして具体的に準備してください。
そして可能なら、短期で軽めの配属から試す。それが、幸福度を損なわない最善の入り口だと、私は自分の体験から強く感じています。

それでは、また。


Preplyでビジネス日本語を教えています。日系企業で働いてみたい方、日本語の更なるスキルアップを目指す方など大歓迎です。お気軽にお問い合わせ下さい。

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