最近、YouTubeでシニアのリゾートバイトを取り上げる動画をいくつか目にしました。
風光明媚な観光地に滞在しながら働く──健康維持や生きがいづくりの観点からも、とても良い取り組みに見えます。私自身も「いつか年齢を重ねたらやってみたい」と最初は前向きに受け止めました。
しかし、しばらく考えたのちに、別の懸念が浮かびました。
現場では、物覚えや業務スピードの差、世代間コミュニケーションの難しさから孤立したり、のけ者にされるケースも少なくないのではないか──。加えて、こうした動画の背後には人材紹介・派遣などのビジネス的動機が絡みやすく、ネガティブな側面が語られにくい事情もあるはずです。
そこで今回は、私自身が20代後半で経験した**リゾートバイト(湯西川温泉のホテル・総務職)**を振り返りながら、現場の実相と、特にシニアが挑戦する際の注意点をまとめます。
私のリゾートバイト体験:理想と現実のあいだ
配属:珍しい「総務」職
人材会社を通じて紹介されたのは、栃木県・湯西川温泉のホテルでした。
フロントやホールではなく総務という珍しい募集でした。業務は在庫管理、給与計算など。体力的には比較的軽いと見込み、気楽に引き受けたのが正直なところです。
到着早々に浴びた“現実”
山深い地に着き、最初に声をかけた番頭さんは、私を客と思って丁寧に応対。しかし、**「リゾバの派遣です」**と伝えた瞬間、態度が一変。
「あっちへ行って聞いて」──露骨な温度差に、宿泊業の厳しいヒエラルキーをいきなり突きつけられた気がしました。
寮の環境:個室だが“凍える三畳”
案内された寮は三畳ほどの個室。壁は薄く、冬の冷気がすきま風のように入り込み、寝具は使い古されて匂いも強い。
「短期で貯金」と腹を括りつつも、正直、環境ストレスは小さくないと痛感しました。
職場の空気:大声のパワハラ
現場を仕切るホール長は、典型的な大声・罵声タイプ。
デルのサポートに電話しながらオフィスに響く声で「俺に仕事させろ!」と怒鳴る姿は、今も鮮明に覚えています。
職場全体に緊張が走り、派遣・短期スタッフほど矢面に立ちやすい空気がありました。
退職:理解ある“二代目社長”との対話
結局、長期契約の予定を2週間ほどで離脱。
去り際、二代目社長が自分の若い頃の苦労を語り、真摯に引き止めつつも私の決断を尊重してくれました。トップの姿勢次第で、現場の過酷さの中にも救いの余白は生まれるのだと知りました。
メディアが語りにくい「負の側面」
労働密度と季節変動:繁忙期は想像以上に過密。未経験者には体力・段取りの両面で負荷が高い。
職場文化の“段差”:外部人材への距離、言葉遣いの荒さ、昭和的な指導法が残る現場も。
住環境のギャップ:寮は“住めればOK”水準のことも多く、睡眠・衛生・寒暖の問題が積み重なる。
世代間コミュニケーション:20代前半が主力の現場では、年齢差が壁になりやすい。丁寧さだけでは距離が縮まらない場面も。
プロモーション的な動画では、どうしても**「生きがい」「第二の人生」**が強調されます。しかし、適応の難しさや職場の未整備は、挑戦前に知っておきたい現実です。
シニアが挑戦する前に確認したい8項目(実務チェックリスト)
体力と持病
持ち場によっては立ち仕事・重量物の扱いが多い。自分の可動域と回復力を冷静に見積もる。コミュニケーションの型
指示は短く早口、現場は敬語よりスピード優先な場面も。聞き返し方の練習を。住環境
寮の広さ・暖房・寝具・騒音・風呂・洗濯動線を事前に確認。寝具は持参(シーツ/カバー/枕)で体感が激変。職場の指導スタイル
「指導=叱責」文化の有無を担当者に具体例で質問。「新人への声かけは?」と運用の実態を聞き出す。班構成と年齢レンジ
同班の平均年齢・男女比・経験年数を事前確認。同期が1人いるだけで離脱率は下がる。業務内容の粒度
「在庫管理」「配膳」などラベルで判断せず、1時間単位のタスクを聞く。ピーク時の段取りも。賄い・休憩・拘束時間
食事時間・休憩の取り方・中抜けの有無・残業の平均。カロリーと睡眠が削られると続かない。契約の柔軟性
途中離脱時のペナルティ、交通費・赴任費の扱い、延長可否。条件は書面で。
それでも挑戦したいなら:適応のコツ
“初回は短期・負荷低め”でテスト
いきなり長期は避け、2〜4週間の軽作業系で現実を確かめる。自前の“快眠セット”を用意
シーツ、枕カバー、軽量毛布、耳栓、アイマスク。睡眠の質は命綱。言い方のテンプレを持つ
「確認させてください」「次は○○の順で進めます」で衝突を回避。若手への“先輩風”は封印
経験談は頼まれたら短く。手を動かす姿勢が最強の共通語。“逃げ道”を契約で確保
体調不良・不適合時の打ち切り条項を必ず確認。
結論:リゾートバイトは“誰にでも優しい選択”ではない
シニアのリゾートバイトには、景色と人間関係と労働が一体となった独特の難しさがあります。
合う人にはかけがえのない体験になる一方、環境ストレスと文化の段差に苦しむ人も少なくありません。
「生きがい」や「第二の人生」の看板に惹かれる前に、ご自身の体力・性格・生活習慣に照らして具体的に準備してください。
そして可能なら、短期で軽めの配属から試す。それが、幸福度を損なわない最善の入り口だと、私は自分の体験から強く感じています。
それでは、また。