理想を言えば、会社に入ってきた社員一人ひとりの適性を見極め、その人に合った仕事を与えることが最も望ましい形でしょう。もしそれが実現できれば、社員は自身の得意分野を生かし、会社としても最大限のパフォーマンスが期待できます。誰もが得意不得意を持っているものですし、興味があっても適性があるかは別の話です。大企業であれば、社員のスキルや才能を見極め、適切な部署や仕事に異動させることも可能かもしれません。
しかし、中小企業ではそうもいかないのが現実です。中小企業は、文字通り人数が少ないのです。数人の会社もあれば、十数人で運営している会社もあります。そのような状況では、一人ひとりが複数の役割を担わざるを得ないことも少なくありません。
もしあなたが中小企業に入社した場合、「自分はこの仕事には向いていないからできません」とはなかなか言えないでしょう。様々な仕事が降ってくる中で、どうやって働いていくかが重要になります。
そこで大切になってくるのが、前向きな捉え方です。もし「こんな小さな会社に入ってしまった」「自分の仕事ではない」と感じることがあったとしても、それを**「新しい仕事に挑戦するチャンスだ」**と捉えることができるかどうかが、成長の分かれ道になります。
もしそこで腐ってしまい、「こんな会社では働いていられない」と不満ばかりを抱えているようでは、それ以上の成長は見込めません。しかし、**「よし、新しい仕事をどんどんやってやろう」**と意欲的に取り組む人は、どんどん成長していくことができるでしょう。
すぐに成果が出るとは限りませんが、将来、起業するなどして一人でやっていく際に、過去の様々な経験が思わぬ形で生きてくることがあります。当時は「なぜこんなことをしているのだろう」と感じていたとしても、後になってその経験の価値に気づくこともあるのです。
私自身の経験を振り返っても、自分の適性と合わないと感じる仕事に就いたことは何度もあります。例えば、精密プレス部品を生産する会社で技術営業を経験しましたが、理系が得意でなかった私にとって、専門的な知識が必要な営業は大変でした。しかし、そうした経験を通して、自分の知らない分野を知ることができたのは非常に良かったと思っています。もし会社に入っていなければ、製造業の世界を実体験として知ることはなかったでしょう。
もちろん、自分の適性を生かしたいと強く願うのであれば、大企業を目指す方が良いかもしれません。
また、日本企業と外資系企業では、人の採用方法にも大きな違いがあります。外資系企業では特定の仕事に対して人を募集することが多いのに対し、日本企業ではメンバーシップ雇用という形で、未経験の人を採用し、育成していく傾向があります。ジョブローテーションを通して様々な部署を経験させ、最終的にジェネラリストを育てるという考え方です。
このような日本企業の特徴を踏まえると、たとえ入社後に「この仕事は向いていない」と感じても、数年我慢すれば別の部署に異動できるという安心感があるかもしれません。もし合わない仕事に就いてしまった場合でも、すぐに会社を辞めざるを得ないという状況になりにくいのは、メリットと言えるでしょう。
今回の話をまとめますと、中小企業では人が少ないため、自分の希望する仕事だけができるとは限りません。そのような環境では、新しい仕事に積極的に挑戦する姿勢が大切です。もし入社した会社で「この仕事しかやりたくない」という態度を頑なに示してしまうと、周りの人、特に社長からの評価は下がる可能性があります。日系企業で働く場合は、柔軟な姿勢を持つことが重要だと私は思います。
中小企業には中小企業ならではの苦労がありますが、それを乗り越えることで得られる成長もあるはずです。今回の話が、皆様の働き方を考える上で少しでも参考になれば幸いです。