私は個人向け営業と法人向け営業の両方を経験してまいりましたが、個人的には個人向けセールスに営業の醍醐味を感じておりました。もちろん、個人向け営業は決して楽ではありません。訪問営業では、お客様が団らん中に突然お邪魔したり、電話営業では、見ず知らずのお客様にいきなり電話をかけたりするため、最初から厳しい対応を受けることも少なくありませんでした。電話営業で、営業だと分かった途端に電話を切られてしまうと、自分の声が反響して聞こえ、なんとも虚しい気持ちになったものです。
やっとお客様とアポイントメントが取れても、そこからがまた大変です。お客様に商品の興味を持っていただき、最終的に購入していただくためには、営業マンがトークでうまく誘導していく必要があります。これは容易なことではありません。まるで、昔の漫画に出てくるような強引な押し売りは、決して営業とは言えないと私は思います。
苦労の末、ようやくクロージングという段階まで進んでも、そこでお客様がなかなか決断してくれないという事態に直面することがよくありました。まさに優柔不断で、早く決めていただければ良いのにと感じることもありました。
よくあるのが、「検討します」というお断り文句です。奥様であれば「主人に相談します」、ご主人様であれば「奥さんと相談しないと」といった具合です。誰かと相談するという場合、それは単なるお断り文句である可能性も考慮しておく必要があります。
結局のところ、お客様が購入に至らないのは、商品の疑問点が十分に解消されていないからだと考えられます。100円や200円の文房具であれば悩むことは少ないかもしれませんが、月々の費用が発生するサブスクリプションや、高額な商品の場合、お客様は様々な不安を感じるものです。将来後悔しないか、本当に必要なのかといった疑問が解消されない限り、「検討します」という言葉が出てきてしまうのです。
では、そのような優柔不断なお客様に対して、営業マンはどう対応すべきなのでしょうか。それは、多少手間がかかっても、お客様の疑問に一つひとつ丁寧に向き合い、質問しながら解消していく以外にありません。ただし、お客様の反対意見を頭ごなしに否定する「ノー消し」と呼ばれる手法は、あまり良くありません。経験のあるお客様であれば、営業トークだとすぐに気づき、不信感を抱かれてしまうでしょう。信頼関係を築くことこそが、お客様に安心して購入していただくための重要になります。せっかく時間をかけて商談を進めても、お客様に怪しい、または鬱陶しいと思われてしまったら、全てが無駄になってしまいます。
もちろん、全てのお客様が優柔不断というわけではありません。例えば、会社経営者の方を相手に個人向けセールスを行うこともありましたが、そういった方は判断が非常に早い印象を受けました。自社の商品のメリットをきちんと説明し、納得していただければ、すぐに契約に至ることも少なくありませんでした。
個人向け営業は大変な面もありますが、お客様に商品を販売できた時の達成感や、信頼関係を築けた時の喜びは、何物にも代えがたいものです。一方、法人向け営業は、個人の力というよりも会社の看板が重要になるため、営業本来の楽しさは薄れると感じることもありました。
最後に、優柔不断であること、なかなか決断できないことについてですが、個人的にはできるだけ早く決断していく方が良いのではないかと考えています。あれこれ悩むのは、将来に対する漠然とした不安からくるものだと思いますが、堂々巡りをしているだけであまり意味がありません。それならば、まずは行動してみて、失敗したらその時に考え直すという姿勢の方が良いのではないでしょうか。
今回の話が、皆様の何かの参考になれば幸いです。