今日は、ビジネスにおける「交渉」について、少し立ち止まって考えてみたいと思います。特に、交渉を「勝ち負け」だけで捉えることが本当に正しいのか、という点について、私自身の経験を交えながらお話しさせていただきますね。
ベトナムでの転職活動と2つの内定
私は以前、ベトナムで働いていました。転職を考えた際、複数の人材紹介会社に登録していたのですが、とても親身になって仕事を探してくれる方もいれば、そうでない方もいて、本当に様々でした。
その中でも、たまたま2社の人材紹介会社の方とはすごく馬が合い、かなり懇意にさせていただいていました。そして偶然にも、そのお二人のコンサルタントから紹介された企業、どちらも結果的に内定をいただくことができたのです。
どちらのコンサルタントの方も、人間的に素晴らしい方々でした。ただ、私の立場としては、どちらか一方の会社を選ばなければならない状況になりました。
内定をいただいたのは、工業用潤滑油(機械油)を販売する専門商社と、精密な機械部品を製造するメーカーでした。どちらも営業職です。
私は当時、いつか工業用潤滑油を扱う会社で働きたいという気持ちがあり、潤滑油の業界に興味を持っていました。というのも、潤滑油は技術革新があまりなく、一度仕様が決まって顧客の工場で採用されれば、ずっと使い続けてもらえる商材だと聞いていたため、営業として比較的楽な商品だと感じていたからです。一方で、機械部品メーカーの営業は、より専門知識が求められるため大変だろうとも思っていました。
私の選択、そしてコンサルタントとの関係性の変化
散々悩んだ結果、私は工業用潤滑油の商社の方を選び、もう一方のメーカーの内定は辞退させていただきました。
メーカーの方の内定を断るということは、そのメーカーを紹介してくれた人材コンサルタントの方にご迷惑をかけてしまうことになります。そのコンサルタントの方は、それまで私の話をじっくりと聞き、ベトナムでの働き方やキャリアプランについて親身に相談に乗ってくださり、私のこれまでの苦労話にも同情してくださるような、本当に良くしてくれた方でした。
しかし、私がそのメーカーの内定を断ったことが原因で、その後一切連絡が来なくなってしまったのです。
ビジネスにおける「交渉と勝ち負け」について考える
この経験から、私はビジネスにおける「交渉」と「勝ち負け」について考えさせられました。
私自身もずっと営業の仕事をしていましたのでよくわかるのですが、営業というのは、お客様にモノやサービスを販売すること、つまりお客様と何かを「交渉」することです。そして、交渉ということになると、最終的には「勝ち負け」になることが多いですよね。
今回の私のケースで言えば、人材コンサルタントの立場から見れば、私が内定を辞退したということは、せっかく紹介して内定まで結びついたのに、最終的に選ばれなかった、つまり「交渉で負けた」ということになるわけです。
確かに、ビジネスの場面場面においては、勝つことが非常に大切です。価格交渉など、お金が絡む場面では特に「勝ち負け」が明確になります。
しかし、たった一度の交渉で負けたからといって、その相手との関係を一切絶ってしまうのは、果たして正しいのでしょうか?
長期的な視点を持つことの重要性
もちろん、交渉に真剣に取り組み、相手が期待に応えなかったからといって、そこで関係を断ち切るという考え方もあるでしょう。そのお客様はもう自分のお客様ではない、と割り切る考え方です。
ですが、私は少し違う考え方もあるのではないかと思うのです。
例えば、たった一度の交渉で負けたとしても、もしかしたら5年後、10年後、あるいはもっと先に、別の形でお客様として戻ってくる可能性もあります。
また、これは営業やビジネスの様々な場面で起こることですが、あえて交渉に「負ける」こと、つまり妥協することによって、相手との関係を維持することも可能です。そして、それは長期的な視点で見ると、自分にとって有利な展開につながったり、あるいは相手が後々良いようにしてくれる、といった可能性も秘めているのです。
あの時助けてもらったから、今度は自分が折れて助けてあげよう、といった関係性は、短期的な勝ち負けだけを見ていると生まれません。
まとめ:目の前の勝ち負けだけにとらわれすぎない
目の前の交渉で負けてしまったからといって、そこで悔しい思いからすぐに相手との関係を断ち切るような短絡的な行動は、非常にもったいないと思います。
たとえその場で交渉に負けたとしても、お客様と真摯に向き合い、きちんと対応していれば、もしかしたら別の新しいお客様を紹介してくれる可能性だってゼロではありません。
ビジネスにおいては、それぞれの勝負の場面でとにかく勝つことももちろん大切です。ですが、時には負けることを受け入れることによって、長期的に見て自分にとってプラスになる展開を引き寄せたり、相手との良好な関係を築き維持したりすることもできるのです。
この辺りのバランスや考え方については、一度じっくり考えてみる価値があるのではないでしょうか。