皆さんは、職場で上司から「あなたのここが苦手だから克服しなさい」と指摘された経験はありますか?日本の多くの企業では、部下の苦手な部分に注目し、それを改善させようとするマネージャーが多い傾向があるようです。今回は、なぜこのような状況が生まれるのか、そしてより良い部下育成のあり方について、考えてみたいと思います。
筆者の経験では、多くの日本企業のマネージャーは、部下の良いところを見つけて積極的に褒めて伸ばすよりも、部下の苦手な点を指摘したり、克服させようとしたりする傾向がありました。もちろん、人格的に優れたマネージャーも存在したものの、部下の長所を見つけて褒める人は残念ながらいませんでした。
褒めない文化と減点主義の背景
なぜ、日本のマネージャーは部下の苦手克服に意識が向きがちなのでしょうか?その背景には、いくつかの要因があると考えられます。
まず、日本には他者を容易に褒めないという国民性があります。仕事でよほど大きな功績を立てない限り、褒められる機会は少ないのが現実です。通常の業務を滞りなくこなしているだけでは褒められることはなく、仕事以外のことであっても、例えば外国語が多少話せる程度では滅多に褒められることはありません。これは、日本人が「褒める」ことや「褒められる」ことに対するハードルを自ら高く設定してしまっているためであり、他者を褒めないことが習慣のようになっていると言えます。
さらに、日本の多くの企業に今も残る年功序列制度のようなシステムや、減点主義の評価制度も影響していると考えられます。このような環境では、何か特定の部分で突出した成果を上げて昇進するというよりは、各分野でそこそこの能力を持ち、何よりも「仕事で失敗しない」ことが非常に重要視される傾向があります。失敗をせずに長く続ける人が評価される、まさに減点主義の考え方です。
このような減点主義の環境で長年働いてきたマネージャーは、部下を育成する際にも、自身の価値観に照らし合わせてしまいがちです。新入社員が入ってきたとき、たとえ特定の分野で優れていても、それが自社の評価基準ではあまり役に立たないと感じるかもしれません。それよりも、「この分野はとても苦手だから、ここを克服してもらおう」と、まずマイナスの部分に目が向き、それをいかにプラスに持っていくかに意識が集中してしまうマネージャーが多いのではないでしょうか。
理想的なマネジメントとは?
では、理想的な部下育成、マネジメントとはどのようなものなのでしょうか。
マネージャーの本来の役割は、部下の良いところ、つまり長所を見つけて、それを褒めて伸ばすことにあります。組織全体として見れば、人材は適材適所に配置するのが理想です。
人間誰しも、すべての分野で優れているわけではありません。長所と短所を合わせ持っているのが当たり前なのですから、短所があるのは当然のことです。
それならば、それぞれの人が持つ長所をしっかりと発見し、「この人はこういうところが優れているんだな」と見つけて褒め、そこをさらに伸ばしていくような人材活用ができれば、それが最も理想的なマネジメントです。
苦手克服の限界と得意分野を伸ばすことの重要性
部下の苦手な部分を克服させたい、というのは、ある種ロマンチックな目標かもしれません。上司にとっても、自分が育てた部下が苦手だった分野を克服したとなれば、満足感も得られるでしょう。
しかし、苦手なことを克服するには、並々ならぬ時間や努力、労力が必要になります。そして、たとえ努力して克服できたとしても、せいぜい二流、三流、あるいは平凡なレベルに終わってしまうことが多いのが現実ではないでしょうか。
一方で、人はそれぞれ得意な分野を持っているものです。やはり、苦手な部分を無理に直すよりも、得意な分野を伸ばすという発想の方が、うまくいく可能性が高いです。お金のためだけに、自分が向いていないことや苦手なことを我慢して続けるのは、長い目で見ると時間の無駄になってしまうこともあるのです。興味がないことに時間や労力を費やすよりも、得意なことに力を注ぐ方が良いでしょう。
自分自身で判断することの重要性
もし、あなたが上司から自分の弱点を指摘され、悩んだり落ち込んだりすることがあるとしても、忘れてはならない重要なことがあります。それは、自分の良いところ、悪いところを最終的に判断するのは、他の誰でもない自分自身であるということです。
上司に色々と指摘されたとしても、その言われたことを気にしすぎる必要はありません。それよりも、自分自身の長所や短所について、自分でよく考えて分析することが大切なのです。人から指摘されて悩むのではなく、自分で判断すれば良いのです。
そして、自分自身でよく考えた結果、今の仕事が自分に合っているのか、得意なことをやれているのか、あるいは苦手なことをやっているのかを振り返ってみてください。もし、本当に心から「合っていない」「苦手だ」と感じるのであれば、その時点で転職を考えても良いかもしれません。その際は、同業他社だけでなく、全く別の業界へ転職することも選択肢に入れるのが良いでしょう。
まとめ
日本企業のマネージャーが部下の苦手克服に注力する傾向は、日本の文化的な背景や企業の評価システムに深く根差している問題と言えるでしょう。しかし、理想的な人材育成は、部下の長所を見つけ、それを最大限に伸ばすことにあります。
働く私たち自身も、上司や他人の評価に一喜一憂するのではなく、自分自身の適性や得意なこと、苦手なことをしっかりと見極めることが大切です。そして、もし本当に今の環境が自分に合わないと感じるならば、新しい道を探す勇気も必要かもしれません。