先日、あるオーディオブックを聴いていた時のことでした。日本の著名な経営者の方々にインタビューをする形式の番組で、私が聴いた回には一部上場企業の社長さんが登場されていました。
社長さんの、これまでの歩みや考え方についてのお話は、頷くことも多く、大変興味深く聴いていたのですが、インタビューの最後に少し違和感を感じた部分があったのです。
経営者の語る「働くこと」とは?
インタビュアーの方が、社長さんに「あなたにとって仕事とはどういう意味ですか?」と尋ねた時のことでした。
社長さんは、社員一人ひとりにとっての仕事観や労働観は異なると前置きした上で、働くということは「1日10時間、それこそ12時間と、1日のほとんどの時間を使うことである」と仰ったのです。そして、それだけの時間を使うならば、「やりがいを求め、達成感もあるし、自分を磨いて、高みを目指さなければいけない」と続けられました。
筆者も、仕事は単に収入を得るためだけでなく、自分を磨き、人間的に成長を目指す方が良い、という社長さんの考え方自体は理解できます。飯を食うためだけに働くのではない、という点には同意できます。
しかし、私が強い違和感を覚えたのは、その前提として「社員が1日10時間、12時間働くのが当たり前」という感覚が垣間見えた点でした。
日本の法定労働時間は8時間ですが、それを過ぎると残業になりますね。社長さんの言葉からは、社員が残業をすることが当然になっているのではないか、と感じたのです。残念ながら、日本では未だにサービス残業が常態化している会社もあると聞きますし、実際に残業をする労働者側も、それについて何も言わないといった現実もあります。また、アクセク働きながらも、いつリストラされるか分からないという不安に怯えている人もいるのです。
社長さんの「1日の大半の時間を費やさなければいけないなら、もっと高いところを目指して頑張れ」という言説は、まさにそうした長時間労働を前提とした考え方です。正直、「感覚が古いな」「自分の感覚をかなり押し付けてきているな」と感じてしまいました。
経営者と社員の決定的な視点の違い
なぜこのような感覚のズレが生じるのでしょうか。
おそらく、経営者である社長さんは、自分の会社だからいくら働いても良いという感覚なのでしょう。仕事が好きで起業され、自分の頑張りがダイレクトに収入となって跳ね返ってくる。だからこそ、労働時間などを無視して「いくらでも働ける」という感覚になるのだと思います。従業員の生活への責任を感じている部分もあるとは私も理解しています。
しかしながら、社員・従業員の感覚はそうではありません。従業員は、あくまで1日の労働時間8時間であれば、それで十分だと考えるのが普通です。仕事が終わったら家に帰り、「仕事終わったな、帰るか」となるのが一般的でしょう。
家に帰ってからの時間は、人それぞれ過ごし方が違います。家族サービスをする人もいれば、自分の趣味に時間を使う人、あるいはそこでようやく自分のやりたい勉強をする人、筋トレに励む人 など、多様な過ごし方があるのです。
ですが、「会社教」とでも言うべきでしょうか。この会社独特のイデオロギーに染まった人間、つまり「8時間で仕事が終わったと思うなよ」「もっと働け」「会社の仕事に打ち込んでいるようなフローの状態が正しい」という考え方を押し付けてくるような会社で働くのは、かなりきついと私は思います。私自身もそういった会社で働いた経験がありますが、大変でした。
変わりゆく日本の仕事観
もちろん、中には仕事が好きで、何時間働いても疲れず、成果が出て好循環となり、長時間労働を続けられるというサラリーマンの方もいると思います。
しかし、特に若い人を中心に、仕事観や労働観は明らかに変わってきていると感じます。仕事は仕事、プライベートはプライベートと、完全に分けて考えるという考え方が、より当たり前になってきているのではないでしょうか。
こうした中で、旧来のパラダイム、つまり古い価値観に縛られたままの社長が会社を率いていると、時代に取り残されてしまうのではないかと感じます。
過去から続く長時間労働とハラスメント問題
日本という国は、本当に昔から長時間労働が問題視されてきました。それにも関わらず、なぜか労働というものが非常に美化されてきたという側面があります。仕事に先進的に打ち込むことこそが、何よりも正しいとされてきたのです。
その一方で、企業の犯罪や、モラハラ、パワハラといったハラスメントの問題は軽視され、無視されてきたとも言えます。様々な被害を受けた人々の声は、無視されたり、潰されたりしてきた現実があります。
それが今になって、ようやく人々が声を上げるようになってきたのが、今の日本の現状だと私は考えています。
これから会社を選ぶ皆さんへ
もし、あなたがこれから日系企業で働きたいと考えているのであれば、一つ気をつけていただきたいことがあります。
日本の特に年配の役職者や経営者の中には、まだまだ昭和の価値観を引きずっている人が多いという現状があります。
今回、私がオーディオブックで聴いた社長さんの話のように、サービス残業や長時間労働を当然視するような考え方を持った経営者もいる可能性が高いです。
ですから、就職活動や会社選びの際には、その会社の文化や経営者の考え方を十分に注意して見極める必要があると思います。
おわりに
今回、著名な経営者の方のお話を伺って、日本の「働く」ということ、そして経営者の持つ価値観について、改めて考えさせられる機会となりました。
私が感じた違和感を、この記事を通じて皆さんにも共有できれば幸いです。