皆様、こんにちは。今回は、日本社会における「喫煙者の出世」というテーマについてお話ししたいと思います。この問題は、最近でこそ状況が大きく変わってきましたが、特に年配の方々を中心に、日本の企業文化にまだ喫煙の習慣が根強く残っていると感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
かつては、タバコを介したコミュニケーションが、社内での出世に繋がるという問題が指摘されることもありました。私自身も以前は喫煙者でしたので、タバコを吸う人の気持ちもよく理解できます。自身の会社員時代の経験を振り返りながら、この独特な文化について掘り下げてみたいと思います。
タイでの経験に見る「非公式の場」の重要性
私が以前タイの工場で働いていた時のことです。その工場には、簡素な造りの屋外喫煙所がありました。多くの日本人駐在員が喫煙者であり、彼らは仕事の合間に頻繁にその喫煙所に集まっては、雑談に興じて時間を潰していました。
まさに、これは典型的な日本人の行動様式だと感じました。というのも、その喫煙所が**「非公式のコミュニケーションにおける重要な場」**となっていたからです。そこで人々はタバコを吸いながら、社内の情報交換や信頼関係の構築を行っていたのです。
なぜなら、日本人の中には会議の場で自分の意見を堂々と述べることが苦手な人も少なくありません。しかし、会議が終わって喫煙所に移動した途端に、堰を切ったように話が盛り上がり、会議では言えなかった本音をポロッと漏らすといった光景がしばしば見られました。これは、非公式なコミュニケーションを通じた一種の「政治活動」や「ロビー活動」とも言えるかもしれません。
喫煙所がもたらす「評価」と「出世」の矛盾
驚くべきことに、こうした喫煙所での雑談や業務の話を通じて、社内での評価が上がり、結果的に出世に繋がるというケースも存在したのです。私が目撃した例では、非喫煙者の総務の方が、あえて喫煙所に来て副流煙を浴びながらも皆の話に加わっていたことがありました。これは、伝統的な日系企業において、喫煙所での交流を一切避けることが「扱いにくい」「頑固」といった評価に繋がりかねないという現実を示しているのかもしれません。
喫煙室は、会議室やオフィスのような公式の場とは異なり、リラックスできる非公式な空間です。本音と建前を使い分ける傾向にある日本人にとって、ここでは自分の本音の意見や軽い雑談がしやすい環境であり、社内ネットワークのハブとなっていたのです。
この「公式の場では本音を言いにくい」という構造は、日本の学校教育の場にも似たものが見られます。授業中は形式的に話を聞いていても、休み時間のような「空白の時間」にはリラックスして雑談に興じる生徒たち。本来なら授業の場で自由に発言すれば良いのに、それが許されないという「ねじれの構造」が、結果的に国際的な場で「つまらない」「かしこまった」日本人を生み出す可能性も指摘できます。
問題の本質と公平な未来への提言
しかし、時代は変化しています。日本においても健康志向や禁煙の推進が進み、喫煙の場や機会は確実に減っています。歩きタバコをする人も激減しました。これにより、喫煙者だけが非公式なコミュニケーションの恩恵を受けるという「不公平」も、少しずつ解消されつつあるように感じます。
それでも私がここで最も指摘したい問題点は、**タバコを吸うという健康に良くない習慣が、結果として評価や昇進に有利に働くという「矛盾」**です。これは、組織内での評価や昇進の公平性を損なうリスクをはらんでいます。「日系企業で出世したければタバコを吸わなければいけないのか」という疑問が生じてしまうからです。
この問題に対し、企業は喫煙所だけに頼るのではなく、誰もが公平に非公式なコミュニケーションに参加できる環境を整備するべきだと考えます。例えば、以下のような取り組みが挙げられます。
- 喫煙所以外のリラックススペースを設置する。
- オンラインでの社員同士の交流機会を創出する。
かつての「昭和型」企業では、喫煙室でのコミュニケーションが非常に重視されてきた面がありましたが、それによって社員間に不公平が生じていた可能性も否定できません。
今後、より公平で健康的な職場環境を築いていくためにも、企業は非公式なコミュニケーションのあり方について、積極的に改善に取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。