日系企業で働いていると、こんな疑問を抱いたことはないでしょうか。
「特別に中身のあることを言っているわけでもないのに、なぜあの人はあんなに評価されているのか」。
この違和感は、能力差というよりも、日本の組織が持つ極めて身体的・物理的な評価構造から生じています。
日系企業において、発言は必ずしも「意味」や「論理」として処理されているわけではありません。
1. 声は「情報」ではなく「振動」として届く
まず前提を整理する必要があります。
日本の企業、とくに伝統的な日系組織において、声はしばしば**情報ではなく「音圧=空気の振動」**として作用します。
論理構成や妥当性は後回しです。
先に届くのは、「大きい」「強い」「押してくる」という身体感覚です。
大きな声は、相手に考える前に反応させます。
理解される前に、支配される。
この順序が、意外なほど多くの場面で機能しています。
2. 会議を支配する「デシベル」という現実
数値に置き換えると、構造はさらに分かりやすくなります。
普通の会話:約60デシベル
はっきりした発声:約70デシベル
会議で存在感を持つ声:75〜80デシベル
人間は生理的に、大きく、長く鳴る音に注意を奪われます。
そのため、どれほど妥当な意見でも、小さな声で語られれば「なかったこと」になりやすい。
逆に言えば、論理が粗く、内容が薄くても、
80デシベルの音圧があれば、議論そのものを押し切ってしまうことが起きます。
これは能力の話ではなく、場の物理法則です。
3. 評価されるのは「考えさせない人間」
日系企業で評価されやすいのは、必ずしも思考を促す人ではありません。
むしろ評価されるのは、相手に考えさせなくて済む状態を作る人です。
そのための典型的なセットが、
大きな声
速いテンポ
間を与えない話し方
です。
考える余白を与えない話し方は、聞き手を「納得した気分」にさせます。
さらに、腹の底から大きく笑う振る舞いも、「器が大きい」「余裕がある」という印象を強化します。
それが誤解であっても、印象としては十分に機能してしまう。
4. なぜ上層部ほど「声」に弱いのか
現場では評判が悪く、実務能力にも疑問があるのに、
なぜか上層部からは高評価を受けている人がいます。
理由は単純です。
経営層や上司が部下を見る時間は短く、会議や報告といった「表の顔」しか観測できないからです。
限られた時間の中で、
大きな声
自信満々の態度
迷いのない言い切り
を見せられると、それだけで「できる人間」に見えてしまう。
実際、現場で嫌われていた人物が、
この「声の大きさ」と「押しの強さ」だけで別組織のトップに気に入られ、再起する例も珍しくありません。
結論:現実を知った上で、どう振る舞うか
もちろん、これは理想論ではありません。
本来、知性を磨くには読書や思考、批判的態度が不可欠です。
ただし、
「日本の組織では、声の大きさが評価を左右しやすい」
という現実が存在することも否定できません。
もし、自分の意見が正当に扱われていないと感じているなら、
内容を磨く前に、ほんの少しだけ「音圧」を意識してみる。
それもまた、現実的な戦略の一つです。
会議室は、繊細な演奏を味わう音楽ホールではありません。
多くの場合、それは拡声器の出力を競う空間です。
どれほど美しい旋律でも、隣で大音量が鳴っていれば、誰の耳にも届かない。
それが、日系企業という場の、冷たい現実です。