AIの進化、SNSの常時接続、株価の乱高下、止まらない動画コンテンツ。
現代社会は、かつてないほど高度で、便利で、刺激に満ちています。
にもかかわらず、多くの人が疲れ、苛立ち、落ち着かない感覚を抱えています。
それは意志が弱いからでも、能力が低いからでもありません。
問題は、文明だけが先に進み、人間そのものがほとんど進化していないことにあります。
文明は21世紀、脳は旧石器時代
私たちの脳の基本構造は、実は1万年前とほとんど変わっていません。
言い換えれば、現代人とは、
「21世紀の服を着た旧石器人が、スマートフォンを操作している存在」
なのです。
リスキリングや最新テクノロジーがどれほど進んでも、
人間のOSである脳はアップデートされていません。
この
文明の進化速度と、生物としての進化速度の致命的なズレ
こそが、現代の生きづらさの正体です。
人間の脳は「三層構造」でできている
私たちの反応が理屈通りにいかない理由は、脳の構造にあります。
人間の脳は、大きく分けて三層でできています。
脳幹(原始的な脳)
呼吸・心拍・生存反応を司り、「逃げる・戦う・固まる」を瞬時に判断します。大脳辺縁系(感情の脳)
喜び・怒り・恐怖・快楽を処理します。ここにある扁桃体は、感情の警報装置です。大脳新皮質(理性の脳)
言語、論理、計画、抽象思考を担う、人間特有の比較的新しい領域です。
重要なのは、
理性を司る大脳新皮質が、最も疲れやすいという点です。
疲労やストレスが溜まると、理性は簡単に機能停止します。
その瞬間、主導権を握るのは、より原始的な脳です。
衝動買い、SNSでの過剰反応、暴言、依存。
それらは意志の問題ではなく、
理性が落ち、原始的な脳が前面に出ている状態なのです。
SNSは「群れの本能」を直撃する
SNSがここまで人を惹きつけるのは偶然ではありません。
それは、私たちの原始的な生存本能を正確に突いているからです。
「いいね」は群れからの承認
承認されたときに分泌されるドーパミンは、
原始時代に「仲間に価値を認められた」時と同じ反応です。通知音は危険信号
獣の気配に即反応していた脳は、
スマホの通知にも同じ警戒モードで反応します。画面は現代の焚き火
液晶を見つめる行為は、
仲間と焚き火を囲んで安心を得ていた行動と酷似しています。
私たちは理性でスマホを使っているつもりでも、
実際には旧石器時代の脳が操作されているのです。
脳の処理能力を超えた社会
人間の脳は、本来、
数十人規模の小さな集団で生きるよう設計されています。
ところが現代では、
SNSを通じて何百、何千人もの情報・感情・評価にさらされます。
脳はそれを処理しきれません。
結果として、不安・嫉妬・恐怖が増幅し、
より即効性のある原始的快楽へと引き戻されていきます。
文明が高度になるほど、
人は皮肉にも、より原始的な行動へ回帰していく。
これは異常ではなく、設計通りの反応です。
結論:頭の中の「原始人」に休憩を与える
私たちは進化していません。
ただ、欲望の形が洗練されただけです。
だからこそ、現代を生きるために必要なのは、
気合いや根性ではありません。
「自分の脳は旧石器人である」と自覚すること。
情報から離れる時間を意識的に作る。
通知を切る。
何も生産しない時間を許す。
理想は自然の中で焚き火を見ることですが、
それが無理でも構いません。
大切なのは、
頭の中の原始人に「もう安全だ」と伝える時間を持つことです。
それが、過剰に刺激された現代社会を、
壊れずに生き抜くための、最も現実的な知恵です。
たとえるなら
現代社会は、
最新型の超高速道路を、石造りの車輪を付けた荷車で走らされている状態です。
車輪が焼き切れる前に、
ときどき路肩に停まり、荷を下ろし、休む必要があります。
それは怠けではなく、
生物としての正しいメンテナンスなのです。